笛の音母が幼い頃の話である。夜、寝床に入って本を読んでいた。ページをめくると「ひゅ~う」という音がする。その音は、ちょうど怪談映画や落語の怪談話で幽霊が現れる時の効果音、ひゅ~うどろどろのひゅ~うという笛の音とそっくりの音だったそうだ。 はじめは気のせいかと思って、ふたたび本のページをめくるとまた、ひゅ~うという音がする。「はて、なんの音かしら?」と耳を澄ますと、何も聞こえない。ふたたび気を取りなおして本を読む。ページをめくったところでまたひゅ~うと音がする。まさかと思って二、三ページめくってみる。ひゅ~う、ひゅ~う、ひゅ~う。今度は本に手をかけないでしばらくあたりの様子をうかがってみる。 音はしない。こわごわ本のページをめくる。ひゅ~う。気味が悪くなって母はそのまま寝てしまった。その後はそんな音が二度としなかったらしい。 角川文庫『新耳袋 第一夜』 より ジャンル別一覧
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